【最終回】武田悠斗にとっての企画職④約束の1カ月と忘れられない夜

【最終回】武田悠斗にとっての企画職④約束の1カ月と忘れられない夜

【第28話】武田悠斗にとっての企画職④

実際の就活や仕事に使える知識やスキルをストーリーで学ぼう!

【WAKE UPストーリー】毎週金曜日更新中

今どきの新社会人林良介、佐藤綾子、武田悠斗の3人が紆余曲折を経て成長していく様子を描いた、就活生~新社会人のための連載型コンテンツ。

登場人物紹介(※クリックで拡大)

登場人物紹介

武田は清々しい朝を迎えていた。

昨夜、岡崎と飲みに行き、本当の胸のうちを聞けたからだ。

昨晩は、岡崎に言われた通り、帰宅してすぐに就寝した。そのおかげもあって、身体の疲れもなく、頭も冴えていた。

武田は勢いよくカーテンを開け、朝日を浴びる。

 

武田
さーて、今日も頑張りますか!

 

会社に着き、ちょうど岡崎が前を歩いていたので、武田は駆け寄った。

 

武田
岡崎さん、おはようございます!
岡崎
おはよう。今日はやけに機嫌がいいな。なんかいいことでもあったのか? 毎日しごかれてるのに

 

岡崎は少しふざけながら聞いてきた。

 

武田
岡崎さんの愛のムチなら喜んで受け続けます!
岡崎
おい……、会社で変なこと言うなよ。妙に思われるだろ
武田
妙に思われてもいいです! それくらい昨日うれしかったんで!
岡崎
あのなあ……

 

岡崎は困った顔をしている。武田はそんなことはお構いなしに、また飲みに行きましょうね!と笑顔を向ける。

それからの日々は『1カ月以内にパソコンをマスターする』という約束を果たすための毎日だった。

会社でも時間が少しでも空けばパソコンをいじった。テキスト片手に分からないことがあれば、同僚にしつこく質問して教えてもらうこともあった。

家に帰ってからも、今までのように極端に睡眠時間を減らすことはなくなったが、パソコンの勉強に集中した。友人に飲みに誘われても、断固として断った。

ネットの動画サイトも参考にしながら、勉強を進めていった。

そうしているうちに、だんだんと、パソコン操作が理解できるようになってきた。

いつもテキストを見ながらでなければ進まなかったパソコン作業をスムーズに進めることができるようになっていった。

そして、岡崎との約束から1カ月が経ったころには、業務に必要なひと通りのパソコン操作を問題なくこなせるようになっていた。

そんなある日、岡崎に声をかけられる。

 

岡崎
だいぶ、できるようになってきたみたいだな
武田
岡崎さん!
岡崎
じゃあ、1カ月も経ったことだし、どのくらいの時間で資料が作れるようになったのか、時間計ってみようか
武田
はい! なんの資料を作ればいいですか?
岡崎
ここに、うちの会社が最近発売した『おしゃべりにゃーちゃん』の売れ行きをまとめたものがある。これをグラフにしてExcelでまとめてくれ
武田
『おしゃべりにゃーちゃん』ってあのお年寄りをターゲットにした商品ですよね? ぬいぐるみに人の声が録音できるっていう
岡崎
そうそれだ。いまは独り身のお年寄りも多いからな。『孫の声が録音されてると癒やされる』って結構人気なんだぞ
武田
なるほど……。分かりました!

 

武田は早速、資料作りに励んだ。そのスピードは1カ月前のそれとはまったく違っていた。

もうテキストもヘルプも見ないでスムーズに進めることができる。

武田は今までの人生、これといった苦労をせずに、要領よく過ごしてきた。

『死ぬ気で努力して何かを習得する』という喜びを初めて知り、うれしくてたまらなかった。

資料作りは順調に進み、1時間で仕上げることができた。

岡崎のもとに出来上がった資料を持っていくと、岡崎はひどく驚いた顔をしていた。

 

岡崎
もうできたのか?
武田
はい。ご確認ください。完璧だと思います!

 

岡崎は早速、武田が作った資料の確認をしていった。終始微笑みながら、武田の成長ぶりがうれしいといった感じだ。

 

岡崎
うん

 

武田はその次の言葉を待っていた。まだまだ出来はよくないのか? それとももう十分パソコンをマスターしたと言ってもらえるのか――。

 

岡崎
よくできてる。1カ月でよくここまで、やり遂げたな。偉いぞ武田!

 

武田は感動して泣きそうになるのをぐっとこらえた。

 

武田
ありがとうございます!
岡崎
頑張ったんだな
武田
はい! もう人生でこんなになにかを頑張ったの初めてですよ。正直何度もくじけそうになりました。

でも、岡崎さんとの約束を果たそうって俺、必死でやりました。限界までやりました。本当に本当に頑張りました!

岡崎
そうだな。本当に頑張ったんだな。よくやったよ
武田
頑張ってよかったです。自分が成長した姿を岡崎さんに見てもらえてよかったです
岡崎
そうだな。よし! 今日はパソコン完全マスター祝いに、仕事終わったら飲みに行くか!
武田
いや、あの……
岡崎
なんだ?
武田
今日は友達と先約がありまして
岡崎
なんだ、そうなのか
武田
そうなんです。そいつにも励まされて、ここまで頑張ってこれましたから。

パソコン教材一式もそいつがプレゼントしてくれたんです。そいつと前から今日は飲みに行こうって決めてて。

結果がどうあれ、とにかく飲もう、と

岡崎
いい友達なんだな
武田
そうなんです。岡崎さんといい、そいつといい、俺は人に恵まれてます
岡崎
うれしいこと言ってくれるじゃないか。じゃ、飲みはまた今度な
武田
はい! ぜひ!

 

岡崎は武田の作った資料を持って去っていった。その岡崎の後ろ姿に『ありがとうございます』とつぶやいた。

夜。林と約束した馴染みの店で、軽く宴をした。

 

いやー、お前なら絶対やり遂げると思ってたよ!

 

林は、武田が宣言通り、パソコンをマスターしたことがよほどうれしかったのか、武田以上に酒が進んでいた。

 

武田
本当にありがとうな。あのとき、お前が励ましてくれたから、いまの自分があると思ってるよ。感謝しかない。ありがとう
よせよ! 水臭いぞ! 俺たち、親友だろー?

 

2人はめでたいことのあとに飲む酒のうまさを知った。

 

武田
俺、本当は何度もダメかもしれないって思ってたんだ。だけど、なんとか、なんっとか、やり遂げたよ。そんな自分が……、今は誇らしい!
そうだそうだ! 武田は自信持て! 全然できない状態から1カ月でやり遂げたんだからな!
武田
本当にお前がいてくれてよかったよ
だよなー、俺のおかげだよなあ
武田
なんかむかつくな!
冗談だよ冗談! さーて、今日はとことん飲もうじゃないか! 武田くん!

 

すでに酔っぱらっている林を見て、微笑みながら、夜の喧騒のなか、はしゃぐ大人たちを、武田は不思議な気持ちで見ていた。

きっとこのなかにも、今日、格別に美味い酒を飲んでいる大人がいるはずだ、と。

なにかをやり遂げた喜びを知り、武田は、これからはもっとあらゆることに真剣に向き合おうと決めた。

ありがとう岡崎さん。ありがとう林。

武田は今日の夜のことは、またいつか仕事でつまずいたときに、そっと手繰り寄せて忘れられないように心に刻んでおこうと決めた。

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