
【WAKE UPストーリー】毎週金曜日更新中
今どきの新社会人林良介、佐藤綾子、武田悠斗の3人が紆余曲折を経て成長していく様子を描いた、就活生~新社会人のための連載型コンテンツ。
登場人物紹介(※クリックで拡大)
武田はそれなりに自分に自信があった。
幼いころからわりと成績は良かった。
大学にもすんなり入学を決めたし、恋人もそれなりにいた。友人にも恵まれ、特に大学4年間は楽しく青春を謳歌することができた。
しかし今、武田は焦り始めていた。
就職が決まって浮かれていたころは、「このまま自分の人生はうまくいく」と思っていた。
しかし、いざ働き出すと、自分のスキルのなさに唖然とするばかりだった。PCの操作ひとつとっても、社会人に必要とされるスキルはたくさんあるのだ。
同僚たちはPCをうまく扱っている。
武田は普段PCを頻繁には使わない。それで困っていなかったからだ。
大学時代もタイピング程度ができれば特に成績に影響はなかったし、iPadやスマホでもある程度の作業はこなせた。
会社ではそれではだめらしい。
会社の2年先輩の岡崎は、あまりに作業の遅い武田にそんなことを言ってきた。
それに、と岡崎は続ける。
武田はぐっとこらえて、頑張ります、とだけ言った。
会社の帰り、久しぶりに林に電話をかけた。林もちょうど近場にいるらしく、飲みにいくことになった。今日は思う存分、愚痴をこぼしたい気分だった。
元気だな……。遠めに見てもエネルギーに満ちているのが分かる。
自分とは正反対だった。
林も営業の仕事ではさんざん悩んでいた様子だったが、今ではうまくやっているらしい。
話を聞かなくても、あの顔を見れば分かる。
武田は林の肩に腕をかけた。
そういって、2人は小さな居酒屋へと入った。林はハイボールを、武田は生ビールを注文した。店内はまだ帰路に着きたくないサラリーマンたちで賑わっていた。
そうこうしていると飲み物が運ばれてきたので、とりあえず乾杯をする。
少し緊迫した空気が2人の間に流れた。しかし、すぐに武田はいつものように、にかっと笑った。
俺なんにもないもん。すっからかん。ただ要領よく今までやってきたんだなって思うよ。
将来のこととか考えて勉強してきたつもりだったけど、足元が見えてなかった。そのツケがどっと押し寄せてきたって感じだよ
武田は、確かに、と思った。確かに愚痴をこぼしたりするのは自分らしくなかった。
今まで、悩みは全部自分の力で解決してきたし、これからもそうだと思っていた。
ただ、こんなに自信をなくした夜だけは、誰かに話を聞いてほしかった。
俺は何度も武田の人柄に救われたぜ。仕事のことでも、何度も何度も励ましてもらってさ。
正直に言うと、今この仕事を楽しめてやれてるのって、武田のおかげだと思ってる
いつの間にか、林は武田以上に熱くなって語り始めていた。自分の身になって、悩みを共有できる関係というのは、そうそう築けるものではない。武田は林という友人を持って本当に良かったと思った。
2人は笑いあった。武田はふと、自分がこんなに楽しく酒を飲めるのは本当に久しぶりなことに気付いた。
林は赤い顔をしながら、あ、ばれた?と笑った。
俺たちはその後も盛り上がり結局、終電間際まで飲んでしまった。会計を済ませ、外に出ると、街全体がもわっとした熱気に包まれていた。
2人は駅まで走った。
前を走る林に武田は話しかける。
武田は叫んだ。すれ違う人が不思議そうに自分のことを見ていた。完全に酔ってしまった2人には恥ずかしいとかそんな意識はなかった。
2人は大きな声で笑いあいながら、楽しいひと時を過ごした。
こんな夜に、林に会えてよかった。
武田は改めて林の存在に感謝した。