【第2話】俺って誰?俺が俺を一番わかっていなかった件

【第2話】俺って誰?俺が俺を一番わかっていなかった件

実際の就活や仕事に使える知識やスキルをストーリーで学ぼう!

【WAKE UPストーリー】毎週金曜日更新中

今どきの大学生、林が紆余曲折を経て成長していく様子を描いた、就活生~新社会人のための、連載型スキルアップコンテンツ。

登場人物紹介(※クリックで拡大)

 

あー、なんもやる気でねー……

 

狭い部屋から窓の外に目をやると、カップルが幸せそうに歩いている。
他人の幸せを、こんなにも恨めしく思ったのは初めてかもしれない。

就活をしなければと思った翌週、俺は大学にも行かず、部屋にこもっていた。

 

『もう、別れよう』

 

綾子のこの一言をとどめに、俺の気力は失われていった。
大学1年から付き合っていた綾子との別れが突然やってきたのだ。それもメッセージで一言だ。

 

なんでだよ……

 

半同棲状態で、一緒に暮らしていた部屋。

そこから自分以外の音がなくなり、俺は、この答えが見つからない問いを、電気もつけずに、ずっと繰り返している。

綾子とはこれまで、二人で楽しくやってきたつもりだ。

確かに、綾子が就活を始め、二人の時間が合わなくなってはいた。でも、これは単にタイミングの問題だろう。就活さえ終われば元に戻れるだろう。

そう俺はたかをくくっていた……。

 

『明日面接だから、今日リョウの家行かないねー』

と綾子から連絡が来たのが、別れを告げられる前日。
俺は、

 

また就活かー。つまんねぇの

 

と気軽に送った。それからしばらく返信がなくなり、次に来たのは終わりの言葉だけだった。

何回も電話した。
『どうしたの?』というメッセージも送った。
けれど返信が来ない。既読にさえならない。

それから1週間が経ち、来週は、付き合って3年目の記念日だ。
去年の記念日には、二人で話して少ないバイト代をはたいてホテルのレストランを予約した。
決して高いレストランではなかったが、大学生の俺たちはちょっと大人になったような気分を味わった。

来年も、再来年も、ずっと一緒にいるもんだと思ってたのになあ……。

 

そんな時、スマホが鳴る。
武田からだ。
こいつは本当に俺が欲しいタイミングで電話をくれる。

 

おっ、どうした?

 

気丈に振る舞おうと、いつもよりテンションを上げて電話に出る。

 

武田
なーお前、綾子と別れたの?
……えっなんで

 

気丈に振る舞おうとした俺は、急に部屋の暗さのなかに引き戻された。
まだ自分でも別れた事実を受け入れられていない俺は、もちろん武田にも言っていない。

 

武田
今日偶然さ、面接行った先で綾子に会ったんだよ。でさ、そのあと受けたやつ数人で飲んで、綾子とも話したんだよね。そしたら、林のことが分からないって泣いてたよ……
はあ? 俺のほうが分かんねーよ。綾子が急に終わらせたんだぞ!

 

武田は悪くないのに、語気が荒くなっているのを感じた。
けれど、パンパンに膨れ上がった風船に穴を開けたように、あふれ出してきた気持ちは一直線に武田に向かっていった。

 

武田
なぁ、とりあえず今から会える?

 

そんな俺の様子には反応もせず、急に切り出してきた。

 

おっ、おう
武田
んじゃ、今からいつもの喫茶店な。今どこ?
武田
そしたら1時間後に集合で
分かった

 

燃え上がっていた心が落ち着いていくに連れて、恥ずかしくなってきた。
俺、なんで武田に当たってんだろう……。

 

1時間後、武田といつもの喫茶店で合流した。

スーツ姿の武田は、なんだか社会人のように見えた。
スウェットで来た俺とは違う世界に住んでいるみたいだ。

 

武田
おー来たか。この一人もん

 

と、笑いながら話しかけてきた。気持ちを軽くしてくれる、この感じが気楽で本当にありがたい。

 

うるせーよ。お前なんかずっと一人だろ
武田
あー俺? いいのいいの、一人が楽しいし。けど意外だな。お前と綾子が別れるなんて。クラスでも、卒業したら結婚しそうだって話題になってたのにさ

 

大学で浮いていると思っていた武田が、クラス内の話題を知っているのに驚いた。それ以上に、そんなうわさが流れていたことも驚きだが。

 

そんなうわさがあったのか?
武田
お前、去年の記念日、綾子にプロポーズしたんだろ。俺の耳にも入るくらい女子たちがキャーキャー騒いでたのを覚えてるぞ
俺、プロポーズなんてしたか……? いや、全く記憶がない
武田
だからか……
……え?
武田
酒に酔って盛り上がったのか知らんけど、将来について語り合ったとかって

 

若干茶化すように話す武田の「だからか」という言葉に妙にひっかかりを感じながら、ため息を漏らす。

 

はあ……

 

なんとなく思い出した。思い返すのも恥ずかしいが。
去年の記念日。

シャンパンの酔いと都内を一望できる景色につられて、綾子と話したのだ。
こんな生活を一緒にしたいね、とか。二人で一緒にいる10年後について、とか……。

当時の俺は、生活とか、お金とか、あまり考えたこともなくて、ただ綾子といられれば楽しいし、幸せだと思っていた。

いつもより酔っていた綾子も楽しそうに話していた。
いつか結婚したいとは考えていたので、俺も酔っぱらった勢いでそんなことを言ってしまった気もする。
それが本格的な”プロポーズ”だと思われているとまでは考えていなかったが……。

そんな回想をしていると、武田が話してきた。

 

武田
思い出した? んでさ、それが原因らしいぞ。今回のこと
どういう意味だ?
武田
林ってさ、結構その場を楽しむ感じじゃん。俺はそういうとこ嫌いじゃないけどさ。綾子からしたら、お前が将来、本当はどうなりたいのかが分からないらしいよ
俺も分かんねーよそんなの
武田
だろうなー。綾子が言うには、お前が、将来は子供がいて、犬がいて、家があって、庭にはブランコがあって、とか、いろいろ話してくれたのはうれしかったけど、その将来を実現できるかが不安になってきたんだと
…….

 

そんな、ベタなことを言っていたのか。俺は。

 

武田
今は世の中じゃ、就活売り手市場なんて言われてるけど、やっぱ大学格差ってあるからさ。うちみたいな小さな私立、実際就活きついんだよ
そうなんだ
武田
それでも、綾子は海外の雑貨を扱う商社とかを志望してるみたいで、英会話習ったり色々頑張ってるらしい
武田
それで気分転換にと思ってお前に会ったら、就活のことなんて深く考えてないって感じだろ? そういうところが不安で、嫌になったんだと
なるほどな……

 

何も言い返せない。まっとうな理由だ。さっきまで憤っていた自分が恥ずかしい。

(つか、そんなに金もないのに、頑張って英会話なんてやってたんだな。あいつは)

ずっと一緒にいた綾子の知らない一面を知って、すごいやつだと思ってしまった。
そして、綾子の志望している業種も、習い事も、何も知らなかった自分自身が情けない。

落ち込んだり怒ったり、恥ずかしくなったり情けなかったり……。
もう、どうでも良くなってきた。

 

けどさ、俺そんなベタな夢語ってたんだな。つまんねーやつ

 

話題を変えようとする。
しかし武田から返ってきたのは

 

武田
いや、それが本来のお前なんだろ
そんなことないよ。俺には夢があって――
武田
はいはい。それはもう聞いたよ。言わないんだろ。夢だから

 

先まわりでそう言われた苛立ちと今日の感情の乱高下で、俺はもうノックアウト寸前だった。

 

武田
お前さ、就活するにしろしないにしろ、一回自己分析くらいしたほうがいいぞ?
自己分析……難しそうだな。つか、俺は俺だし
武田
そんなこと言ってるから、自分の将来も分からなくなるんだよ。言葉とか感情とかって会話によってぶれるじゃん。見栄もあるしさ。だから本来の自分は意外に分からないもんだぞ

 

確かにそうだ。プロポーズの件も、自分の本心から出た言葉なのかは分からない。

 

じゃあ、武田はどうなんだよ

 

すると、ノートを取り出した武田は、

 

武田
これ

 

A4のノートを見せてくれた。
びっしりと文字で埋め尽くされたノートには、武田の生い立ちからその時の思い、考えたことなどが書かれていた。

 

すげーな。これ……

 

なかにはグラフや年表のようなものまであり、不覚にも少し感動してしまった。

そして、これだけプライベートなことが書かれたノートを見せられる武田は、とても強いやつなんだと感じさせられる。
俺だったら、絶対に他人には見せたくない。

 

武田
一回自己分析やると、少しずつだけど、自分がどういう将来を送りたいのかが見えてくるんだよ。就活、結構やったけどさ、なんか企業にペコペコしてるやつとか、こいつ絶対会社に合わせてるだけだろ、ってやつも多いんだよね。だけど、俺はそうなりたくない。そんな時にこれが俺の強い味方ってわけ
なるほどな、しっかりと自分のことが分かっていれば違うよな……。俺もやってみるか。自己分析

 

武田の言葉と、堂々とした態度にあこがれに近い感情が沸き上がる。

 

武田
いいんじゃねーか、どうせ記念日もこのままだと暇だろ
うるせーな

 

喫茶店からの帰り道、俺は一冊のノートを買い、自己分析についてスマホで検索をした。
まずは、俺が今までやってきたこと、生きてきた歴史を振り返ろうと思った。

 

少し振り返るだけでも、たくさんの人にお世話になって、たくさんの人に迷惑をかけてきたんだなあ、と感じる。

綾子に謝りたい。もし次にあいつに会えたなら、すぐに謝ろう。と心に決めていた。

 

次回へつづく

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