【WAKE UPストーリー】毎週金曜日更新中
今どきの新社会人、林良介が紆余曲折を経て成長していく様子を描いた、就活生~新社会人のための連載型コンテンツ。
登場人物紹介(※クリックで拡大)
アオキ物産の営業は基本的に男性が多い。
今まで関わった上司や先輩もみんな男性だった。
しかし、アオキ物産に女性の営業がいないというわけではない。
見た目がおとなしそうで物静かなオーラをいつも漂わせているその人とは、今のところ接点はない。
山田部長にそう話しかけられたのはほんの数日前のことだった。
そう。
営業職は普通男性がするものだと思っていた。
女性営業の後藤さんと初めて話すことになったのは、山田部長から話を聞いた数日後だった。
俺はいつものように出社すると、すでに出社していた山田部長に後藤さんを紹介された。
山田部長が手招きして俺を呼ぶ。
そう言いながら山田部長の元に駆け寄ると、後藤さんが山田部長の横に立っていた。
年齢は25歳くらいだろうか。髪をひとつに束ねて、化粧は薄め。服装は清潔感のある白いシャツに紺の膝丈スカート。
後藤さんは、少し高めのトーンで気持ちのいい綺麗な声をしていた。
俺はちらっと後藤さんを見た。後藤さんは、にこっと微笑んで、よろしくお願いします、と軽く頭を下げた。
以前、保険外交員の女性と会った時も衝撃を受けたものだが、後藤さんはどんな営業スタイルなのだろう、と俺はわくわくしていた。
俺は後藤さんと一緒に、会社を出た。
今日は後藤さんが担当しているレストランの店主が、今後の仕入れについて話したいらしい。顧客から相談をもらうなんて……、アフターフォローまでぬかりないのはさすがだ。
着いた先は和食のレストランだった。
素材にこだわるお店らしく、ひとつひとつの食材に気を遣っているんだとか。
そう言って後藤さんが店内に入ると、ランチタイムのピークが過ぎたのか店は空いており、すぐに店主が駆け寄ってきた。
店主は俺のことを後藤さんに尋ねる。
店主のその言葉に俺は驚きを隠せなかった。
付き合いが8年ということは、新卒入社だったとしても30歳前後だ。見た目の雰囲気や顔の作りが若いためかもっと若い想像をしていたが、どうやら違うらしい。
俺の要望にも、ひとつひとつ丁寧に応えてくれるしね。親身になって、この店の料理にどんな食材がいいのか真剣に考えてくれるし、信用できる。何より娘みたいでさあ。
後藤ちゃんがお勧めしたやつは、つい頼んじゃうんだよなあ
店主は笑いながら続ける。
そりゃ経営が傾いたり、色んなことがあったけど、そのたびに後藤ちゃんは、こういう料理を出したら若い子も来るんじゃないかとか、アドバイスをくれるんだ。
今、若いお客さんに人気のメニューが『サラダそば』なんだけど、その野菜もアオキ物産から仕入れさせてもらってるよ
なるほど、勉強になる……。
料理についての細かいアイデアまで出しているのか。
しかもターゲットに合わせてアドバイスして、実際にそれが売り上げにつながっているなんて、本当にすごいことだ。
俺は顧客の前にもかかわらず、思わず呟いてしまった。
インスタント……、もとい、インスタ映えする料理をちゃんと提案できる社員が、後藤さんのほかにアオキ物産にいるだろうか。
女性だからこそ持てる視点なのだろう。
店主と後藤さんは仕入れの話をし始めた。なにやら、新しく取り寄せたい野菜があるらしい。後藤さんはそれに対して優しい笑顔で受け答えをしている。
無事に商談が終わり、後藤さんとの帰り道。
私を参考にしてくれるんなら、男性営業のいいところと女性営業のいいところをどっちも取り入れていくのがいいんじゃないかな。
何より……、これはほかの社員からも散々言われてるかもしれないけど、信頼関係ができると営業はスムーズに進むよ。
そのためには、こっちが真摯に接することが大事だと思う。自分の営業成績だけ気にしてたら、相手に見透かされちゃうから、多分だけど
後藤さんは、俺の背中をぽんと叩いた。何だか『これからまた仕事を頑張ろう』というエネルギーがみなぎってくるような気がした。
保険外交員と後藤さん、俺が知ってる女性営業はこの2人だけだ。
2人ともタイプが全く違うので、とても面白い。
そして勉強になる。
後藤さんの言う通り、性別も年齢も関係なく、色んな人のいいところを取り入れて、俺は俺の営業スタイルを築いていこう。
そう思うと胸が高まった。