【WAKE UPストーリー】毎週金曜日更新中
今どきの新社会人、林良介が紆余曲折を経て成長していく様子を描いた、就活生~新社会人のための連載型コンテンツ。
登場人物紹介(※クリックで拡大)
小島が聞いてきた。
俺は配属先について悩んでいた。
最近は営業職の人気は低下しているらしく、内定者のなかでも、営業職を希望する者は少なかったからだ。
インターンで味わった営業としての快感と、もともとあった営業へのイメージの狭間で苦しんでいた。
学生時代に目にした、忙しそうに重い鞄を持ちながら歩き回っているサラリーマン。
大変そうだな、と感じていた。
居酒屋でアルバイトをしていた時には、営業職と思われる人たちがクライアントの愚痴や営業数字への不満を話している姿も見ていて、
苦しそうだな、とも感じていた。
『営業職=大変+苦しい』
という公式が頭のなかで出来上がっていたのだ。
しかし一方で、インターンの最終日の快感も忘れられない。
もし安易に営業職を志望してしまって、大変さや苦しさがその快感を押しつぶしてしまわないかが不安だったのだ。
インターンのメンバーからは、
『林は営業職に向いてるよ!』
『1位なんだから、営業職でしょ!』
のような声ばかりをかけられ、完全に営業を志望すると思われているようだ。
『林が山田部長から営業に誘われている』
と、飲み会での笑い話が変なうわさになって広がっているらしい。
そのため同期には小島も含め、少し相談しづらい状況になってしまっているのだった。
希望の提出日は、明日に迫っている。
どうしようという焦りで、正直、午後の研修は集中できなかった。
15時になり少しの休憩のあいだ、ひとりで外に向かった。
空を見ながらつぶやき、携帯を見るとメッセージがきていた。
武田からだった。
一方通行のメッセージなんかは送り合っていたが、お互い内定が決まってから忙しくなり、まともな連絡を取るのは久々だった。
卒業式からそこまで時間があいていないのに、無性に会いたくなった。
行く、とだけ返すと
とすぐに返信がきた。
仕事の残り時間はあっという間だった。
先ほどまでは全く集中できなかった研修もしっかりと臨むことができるようになった。武田のおかげだ。
研修も終わり帰り支度をする。
明日配属先希望を出さなければいけない新卒メンバーは、このあと数人のグループで飲みに行くらしい。
俺も2つのグループから飲みに誘われたが断った。
俺は武田に相談がしたい。
今回アオキ物産に就職できたのも、武田が就活というきっかけを与えてくれたからだ。
少し時間が余りそうだったので、駅の地下にある本屋で、さまざまな職種についての本を読むことにした。
情報を自分で収集する癖がついたことは、就活を通して手に入れた長所だと感じていた。
しかし本を読むことでは答えは見つけられなかった。
待ち合わせの店に着き席に座ると、武田から少し遅れるという連絡がきていた。
入社したばかりの段階でここまで終わる時間が違うことに驚きながら、早めに帰社できる自分の会社はいいな、としみじみと感じていた。
武田は約束の時間から15分ほど遅れてやってきた。
武田は大学で会っていた時より、しっかりとしたイメージになっていた。
武田が入社した会社は、人材関係の企業だ。
この店は昼間はカフェだが、夜は大人向けのバーといった雰囲気だ。
しばらくすると、頼んだビールがきた。
二人でこうやって乾杯するのは、会社のメンバーと乾杯するのとは違った楽しさがある。
無理しなくてもいいし、とても落ち着く乾杯だった。
俺は、素直に相談できる仲間がいることの大切さを知った。
会社ではやはりライバルとしての感覚や見栄もあるけど、学生時代の友人というのは楽だ。
気持ちも楽になり、新たな目標ができた俺は、酔っていたこともありいつの間にか武田の家に向かい寝てしまっていた。
朝起きると、机の上には、盛り上がって書いてしまった配属希望の書類があった。
名前:林良介
配属希望先:国内事業本部営業部
希望理由:日本の飲食店を支えたい。そして営業として、本当の意味で1位になる。
この配属希望書をみて、人事の人はどう思うのだろうか。
あとは人事次第か。