マーケティングの効果を高めるためには、人間の心のなかに潜む考え方や行動のメカニズムを知ることが大切です。
なぜなら、話し方や質問の順序などちょっとした違いで、人の行動を変えることができてしまいます。
たとえば、営業の商談ではじめから希望価格を提示するよりも、高額な値段を提示して徐々に金額を下げていった方が、商談相手に「とても安くしてもらえた」という満足感を与えることができます。
このように、心理学を知らないままマーケティング活動を行うよりも、知識として知っているだけでより効果的なマーケティング活動を行うことができるようになります。
この記事では、消費者の心を掴むマーケティングに有効な心理学について解説します。
あなたのマーケティング活動はもちろん、人間関係を良好にするテクニックを身につけることができます。
フット・イン・ザ・ドア効果
「フット・イン・ザ・ドア」効果とは、人間の「いったん要求を受け入れると、次の要求を断りにくくなる」という心理が生まれる効果のことです。
相手が受け入れやすいお願いから始まり、徐々に難しい要求にしていくことで、最初からだと絶対に受け入れてもらえないような要求を最終的に受け入れてもらえるようにハードルを徐々に上げていく方法です。
ドア・イン・ザ・フェイス効果
「ドア・イン・ザ・フェイス」効果とは、本来の要求よりハードルの高い内容を、最初から断られるのを承知で提示し、つづいてそれより低い難度の内容を示していく方法です。
これは、人間は断ることで一種の罪悪感が生まれ、それを解消したい心理になることを利用する方法です。
ザイオンス効果
ザイオンス効果とは、同じ人や物、サービスを見たり、聞いたり、あるいは接したりする回数が増えれば増えるほど、良い印象を持つようになる心理が生まれる効果のことです。
親が好きなスポーツチームを子どもも一緒に好きになるのもその効果の一例です。
ザイオンス効果を知っていると、たとえば多くの人が1回程度しか接触できないような対象が広くて薄い内容の広告宣伝よりも、ターゲットを絞って、対象を狭く宣伝の回数を増やして見聞きする接触回数を多くする広告宣伝の方が、同じ費用でも効果が高いことが分かっています。
また、広告宣伝を集中的に行うと、細く長く行う宣伝効果よりも効果が長く持続します。
たとえば店舗などの場合、いったん顧客との接点を持てたら、他店が行うお知らせよりも効果的なお知らせによって顧客との接触回数を増やすことで、ザイオンス効果が得られます。
なお、ザイオンス効果を用したマーケティングを実行するときは、広告内容の印象の強さ、購買意欲を高めるための訴求ポイント、競合などを多角的に分析して、対象層や回数、内容を検討すする必要があります。
予算があるから、あるいは長く続けたほうが宣伝しているつもりになるから、といった理由で心理学を無視するなら、費用対効果の高い効果的なマーケティングは不可能です。
返報性の法則
返報性の法則とは、人間には何かを与えられると、返したくなる心理が働くという法則です。
たとえば、ツイッターやフェースブックのようなSNSで「いいね!」を押してもらったら、「いいね!」を返さなければいけないと思うことや、「あいさつをされれば、あいさつを返す」というのも返報性の法則です。
思いを伝えても通じることが難しい愛情のような心理行動についても同様で、愛を与え続けることによって、当初は相手にされなかった人でも、やがて愛が成就することもあります。
返報性の法則とザイオンス効果を組み合わせることで、より効果的なマーケティングができます。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、人間は勝ち馬に乗りやすい、時代の流れに乗り遅れたくない、多くの人の意見を受け入れやすいという人間の心理のことです。
ある商品やサービスの評判が良いと、その商品やサービスを購入したり利用したりする満足感や安心感を高くなる心理を持ちやすくなります。
店頭で「今、大人気の商品」「当店の人気No.1商品」といった表示を見ると、どんな商品だろうと気にする経験をした人は多いでしょう。
また、行列のできる店には、興味がなくてもつい気になって並んでしまったという経験がある人も多いはずです。
スノッブ効果
スノッブ効果とは、バンドワゴン効果とは逆に、他の人が持っていない商品、他の人とは少し違う商品、あるいは入手が困難な商品を欲しいという心理のことです。
「希少品ですよ」
「あと3個しかないですよ」
「3時までの注文限定ですよ」
と言われて、思わず手に取って購入したり、購入を真剣に検討したりした経験がある人も多いと思われます。
商品やサービス、広告宣伝の手法によって、この心理効果を適切に使用すると、「大安売り」や「売り切れ御免」などと謳う単純なマーケティングよりも、より高い効果が得られます。
ヴェブレン効果
ヴェブレン効果とは、高額な商品やサービスを実際に使用・利用した効果に満足するのではなく、高額な商品やサービスを所有していること、利用できること自体に満足する心理効果のことです。
無理に価格を安くするよりも、高価に設定するほうが商品やサービスがよく売れます。ヴェブレン効果を生かした典型的なビジネスは、高額なブランド商品の商法です。
安価な商品を高値で販売する偽ブランド商法ではなく、ブランドの価値を高めて高級仕様の商品を販売するビジネスモデルのことです。
ブランド価値を高めるマーケティングは、他社との差別化や競争力優位の源泉にできるので重要です。
ヴェブレン効果の裏には、価格のシグナル効果という心理効果が関係しています。
価格のシグナル効果とは、商品の品質が簡単に判断できないとき、品質の優劣を価格で判断する心理のことです。
似たような商品が1万円と5万円で同時に販売されているとき、それらの品質の違いが簡単に判断できない場合に、5万円の商品の品質が高いと多くの人が無意識で判断します。
まとめ
人を相手にするマーケティングにおいて、その効果を高めるには、人間の心理や行動を詳しく知らなければなりません。
それは、スポーツを行うときにそのルールを知らないと強くなれないのと同じです。
実際のマーケティングでは、どのような人にどのようなニーズがあって、価格をいくらにすれば最も売れるか、他社との差別化はどうするかなどの戦略を多くの企業が立てます。
しかし、人間の心理や行動に基づかねばならないマーケティングは、多くの企業で広告宣伝の担当者がキャッチコピーを判断したり、商品企画の担当者が商品の特徴や仕様を強調するという程度にとどまっています。
これらも重要なマーケティングですが、人間が本質的にどのような心理になりやすく、その結果、どのような行動を起こしやすいのかをよく知って、マーケティングを行うと効果をより高められます。
そこで今回は、心理学で研究されたごく一部の「フット・イン・ザ・ドア」「ドア・イン・ザ・フェイス」「ザイオンス」効果などを紹介しました。
心理学で科学的に解明された人間の心のなかに潜む心理や行動は、まだまだたくさんあります。ぜひ、できるだけ多くの事例を知ってマーケティングに活用できるようにしてください。