基本的に、企業は複数の事業体を持ち、活動を行っています。
それぞれの事業には事業戦略がありますが、事業戦略よりも高度なレベルにおいて「持続的な競争上の優位性を確立するために行うべき方針」のことを全社戦略、または企業戦略と呼びます。
簡単に言ってしまうと「会社全体の方向性を決める戦略」になるのですが、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか?
全社戦略とは経営資源配分を方向づけること
全社戦略は企業の長期的な基本戦略であり、経営ビジョンを策定し、それを会社全体に浸透させることが目的で作られます。企業の経営理念と呼んでもいいでしょう。
経営戦略のなかでも全社戦略は、事業戦略と機能別戦略の上位に当たるものであり、
- 全社戦略を元に事業戦略を立て、
- 事業戦略を元に機能別戦略を立てる。
というように、全社戦略を基本として、最終的に機能別戦略まで分解し、落とし込むことになります。
全社戦略の主な目的は「事業の基本構成と経営資源配分を方向づける」ことです。
この「経営資源」とは、会社が利用できるリソースのことを指しており、ヒト(人)・モノ(物)・カネ(金)・情報の4つに分けられます。全社戦略では、この4つの資源をうまく配分していくということが求められるのです。
例として、4つの資源のひとつであるカネ(金)で考えてみましょう。
A社の今年度の投資予算が1億円だったとします。A社には3つの事業部
- b事業部
- c事業部
- d事業部
が存在します。
b事業部は好調で利益が見込めますが、c・d事業部に関しては、ここ数年、不調が続いています。
b事業部に予算の全額を投資したほうが利益は上がりますが、長期的に考えると、c・d事業部は会社にとって必要であると考えられています。
最終的にA社では、b事業部には5,000万円、c事業部には2,500万円、d事業部には2,500万円を配分することに決めました。
このように、投資予算をそれぞれの事業部にどのように配分するのか、ということも全社戦略に含まれます。
経営資源の分配がしっかりとしなければ、事業を効率的に運営していくことはできません。優秀な選手が在籍するチームでも、監督の采配が良くなければ試合に負けてしまうように、企業の資源も適切に分配する必要があります。
適切な経営資源の配分方法とは?
全社戦略のなかでも、経営資源の配分は、もっとも重要視するべき内容です。理想的な経営資源の配分方法とは、どのようなものなのでしょうか?
もちろん、経営資源の配分に関しては、企業によって適切な方法は異なります。
しかし、そのなかでも、基本として押さえておくべき「共通するポイント」がいくつか存在します。
先ほどのA社の例のように、利益が見込める成長事業には最大限の経営資源を投入し、衰退している、または安定している事業には最小限の経営資源を投入します。
これはなにも、単純に「成長している事業だから経営資源を多く投入しよう」という考えではなく、“製品のライフサイクル”を元に考えられています。
この“製品のライフサイクル”とは「製品には導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つの段階を経る」という理論です。それぞれの段階を簡単に説明しましょう。
導入期
製品の認知度が低く、市場での需要も低い状態です。認知度を上げることが重要な目的のひとつとなりますが、需要の低い理由が単純に認知度の低さだけなのかどうか、原因を探す必要があるでしょう。
成長期
製品の需要が増え、売上・利益ともに急上昇している時期です。しかし、同時にライバル製品も増えるタイミングであり、市場の拡大が求められます。
また、流通経路や供給量が増えるため、生産ラインにコストをかける必要があるでしょう。
先ほどのA社の場合、b事業部が成長期に当たるため、経営資源を投資しなければいけません。
成熟期
競争相手も安定し、市場の拡大が見込めない時期です。製品の改良によって機能面に大きな差をつけることが難しいタイミングでもあります。
そのため、市場を拡大させるための行動ではなく、どちらかというと防衛するための行動が求められます。維持するための投資がどのくらい必要なのか、全社戦略での判断が重要になります。
衰退期
製品の需要が下がるとともに、売上・利益が衰退し始めます。全社戦略ではこの事業に対して、撤退すべきかどうかという判断が求められます。
撤退しない場合は、最低限のメンテナンス、及び既存の顧客の保守対応をしなければいけません。
先ほどのA社の場合、c事業部とd事業部は成熟期または衰退期に当たります。
このように、製品のライフサイクルは、“どんな製品も、一度市場に出ると、いつかは衰退し消えてしまう”ということを表しています。
この理論を元に考えると、製品に対してどんなに強い思い入れがあったとしても、いつかは撤退をしなければいけません。
そして、会社を存続させるためには、成長期の製品に投資する必要があるため、それぞれの製品の時期を見極め、折り合いをつけなければいけないのです。
全社戦略では柔軟な経営資源配分が求められる
経営資源配分は、会社の命運を左右するほど大事なことです。
どんなに優れた資源を豊富に持っていても、その配分がうまくいかなければ、有効に活用することはできません。
成長期の製品があるにもかかわらず、経営資源の投資が少なければ、生産ラインが追いつかず、競合他社に負けてしまうでしょう。
成熟期の製品で安定した利益が出ているにもかかわらず、成長期の製品にばかり経営資源を投資してしまったことで、安定した利益を失う可能性もあります。 このように、全社戦略では市場や競合他社の動きを冷静に見極め、経営資源をうまく配分することが求められるのです。