なぜ部下のモチベーションが下がるのか
キャリアプランの多様化が進む中、組織内でチームメンバーのモチベーションを維持するためにできることがあります。
それは部下の強みに注目することです。部下を指導する方法には2つあります。
- 部下が抱える課題を解決する方法
- できていることや得意なこと=「強み」にフォーカスする指導
です。
私たちが子どものときから受けている教育は、基本的に課題解決型です。
できないからもっとがんばろう、不得手なことをできるようにしよう、という考え方が無意識の中で働きます。
職場でも上から課題解決ばかり求められていては、人はヤル気をなくします。
そしてモノがあふれた今の時代、少し厳しくされると簡単に仕事を辞めてしまう傾向があります。
それではどのような考え方で部下に接していけばいいのでしょうか。
JAL時代に実践した「強みに注目する指導」
私自身が前職でチーフパーサー(客室リーダー職)の時に部下の指導育成に向けて一番力を入れたことが「強みを見つける指導」でした。
その頃、JASとの統合という大きな社内変革がありました。
フライトの現場では国際線乗務経験が全くなく、短距離路線でキャンディサービスをしていた客室乗務員たちが、統合により突然、ニューヨーク線をフライトすることになりました。
もちろん教育訓練はしっかり受けていますが、すぐに業務がうまくできるわけではありません。
以前のように人員に余裕がないので、できるだけ短期間で一人前になってもらわないと支障をきたすわけです。
私のチームにも元JASの乗務員が配属され、最初はどのように指導したらいいのか悩みました。
彼女たちの戸惑いも大きかったはずです。ただ、単に厳しく指導したらますますパフォーマンスが下がることだけはわかっていました。
「どうしたら最短で成長してもらえるのか」
その答えを教えてくれたのはある本でした。
マネージメントの父=ドラッカーの本です。そこに書かれているのは「強みを活かすこと」でした。
部下が「できていること」を伝える
できないことを指摘するより、できていることに注目する。
それがマネージメントだと書かれていたのです。
不安を感じながらもとにかく部下の得意なこと、プラスに評価できることを本人に伝えていきました。
たとえば、笑顔でお客さまに接することができていることは客室乗務員としては当たり前のことですが、それもしっかり認めて言葉にしました。
その上でできていないこと、課題については、なぜその業務が必要なのか、その先にどんな業務があるのか、それがどのようにお客さまに喜ばれるのかなど様々な角度から説明しました。
私の乗務員歴の中であれほど口うるさく指導したことはないくらいでした。
私の経験から理由がわかっていたほうが仕事を理解するスピードが上がると考えたからです。
その結果、彼女は驚くほど成長し、お客様からお褒めの言葉をわざわざいただいたほどでした。
私たちは課題解決型の教育を受けています。できないからもっと勉強する、できていないことをできるようにする、という教え方です。
それはそれで意味があることですし、日本人は会社や上司から指示されたことに一生懸命、真面目に取り組みます。
でも、それではモチベーションを維持することは難しくなっています。
人は「それぞれ違う個性」=「強み」を持っています。その強みを伸ばし、得意なこと、できていることを認めることによって自尊心を保てるのです。
フィンランドの小学校では子どもの強みを伸ばす
教育先進国フィンランドでは、子どもたちの強みを伸ばす関わり方を実践しています。
授業の中で、先生が子どもに「~しなさい!」「~はダメ!」など上から指示をしたり、叱ったりすることはしません。
子どもたちの自主性を育てるために「できていること」を認め、個々をよく観察して肯定的な言葉がけをしています。
起業家を育てることを国全体でサポートしているので、将来人と協働し、なにごとにもチャレンジできる大人になるための内面の基礎づくりをしています。
教師や保護者など大人が一方的に教えるのではなく、子どもの個性を認め、自分で考えて行動できるように丁寧に支援しているのです。
子どもの教育も部下の指導も基本は同じです。
上から目線ではなく相手を人として尊重すること。価値観を認めることが基本です。
その具体的な行動としては、部下の強みを見つけ、それを言葉で伝えていくことです。
面倒に感じられるかもしれませんが、しっかり向き合えば、部下との関係の基礎ができるので指導がしやすくなりますし、指示待ちではない、自主性を発揮できる部下育成にもつながります。
日本人も多様化
私が新人の時を思い出すとフライトの現場も大きく変化しました。
当初はアジア系の乗務員だけだったのがグローバル化して、ヨーロッパ基地の客室乗務員も採用されて一緒に乗務しています。
彼らに業務指示を出すと「どうしてそうするの?」「他のやり方じゃダメなの?」と理由を聞かれたり、より良い方法を提案してきたりします。
集団行動重視で、みんなで同じ方向に進むことが得意なわたしたち日本人と、個人主義を大事にする欧米人とは全く価値観が違うということを体験した一例です。
そのころに比べてわたしたち日本人も多様な価値観を持つようになりました。
たとえば、携帯電話の進化によってコミュニケーションの取り方も変化しています。
固定電話しかなかった私たちの世代と、誰もが携帯電話を手に持つ時代に育った世代では人との関わり方が変わるのは当然です。
価値観や考え方が違うからこそ、しっかりコミュニケーションを取り合ってお互いを理解しようとする姿勢が大切です。
どんなにAIが発達してもヒトとヒトのリアルな関係性構築は欠かせません。
より一層意識していく必要があるのではないでしょうか。
人はロボットと違い協働することによって発想力を高めることができます。
新しい商品、サービス開発のためにも上下、左右斜めのコミュニケーションを取り合い、チームを活性化していくことがリーダーの役割だと思います。
第5回へつづく
『JAL×フィンランド式 部下を伸ばすリーダーのコミュニケーション術』
水橋史希子
前職は日本航空の客室乗務員として26年間国際線、国内線に乗務し、のべ300万人を接客。
チーフパーサー時代はフライトするメンバーの強みを活かすチームづくりを積極的に行った。
安全指導教官の経験から、チーム内のコミュニケーションがトラブル防止と顧客視点向上に役立つことを確信し、研修事業を行うグロリアタイム株式会社を設立。
ひと言を添える声掛けの大切さを体系化し、接客業に限らず、女性ならではの視点を活かしたマネジメントを必要とする様々な企業で研修を行っている。
一方、保護者や子どもたちを対象に、フィンランドのコミュニケーション教育を参考にした言葉がけや子育て講座を行うフィンランドエデュケーション協会を設立。
子どもたちに学ぶことの楽しさを伝えるボードゲーム「森の社長さん」を開発。
すでにフィンランドの小学校の教材として採用されている。
主な著書
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